作成日:2001年11月09日
更新日:2001年11月21日
■予想のわな
ふと最近、自分の馬券術に疑問を持つ事がある。これは当たる当たらないの問題ではなく、結果分析をするたびに心の片隅で引っかかっていた事が、より具体化して頭から離れないせいだろう。最近の個人的なテーマは軸馬選定の精度向上であり、縦目のような間抜けな予想を立てない為に、この作業の精度を上げることに取り組んでいる。
なすの馬券術は馬の能力と適性の高いものをピックアップし、その日の馬場や展開が有利に働く馬をより上位に見ると言うもの。これは今でも正しいアプローチだと思っているし、実際成果もあげている。ただ、毎週毎週予想という作業を続けていくと、スピード指数や能力表など明確に数値化されたデータのみに頼る傾向が強くなる。特にスピード指数のような明確な数値は扱いやすい上、自分を納得させやすい材料でもあるため、知らず知らずのうちに指数の高い馬を高く評価してしまう。かつて吹き荒れていたスピード指数偏重主義(今もあまり変わらないかもしれないが…)は、この落とし穴にはまり、単なる走破タイムを比較しやすい指標に置き換えただけの数値が、一人歩きしオッズを左右する化け物にまで成長させてしまった。ここで重要なのは、スピード指数は確かに馬の能力の一端を示しているが、完全な能力値ではなく、しかも適性や調子などのファクタは排除されているという事だ。よく、スピード指数は単なる予想の1ファクタに過ぎないという言葉を聞くが、これはまさに一人歩きを始めた“怪物”へのアンチテーゼである。
「スピード指数=能力値」ではない
この事は、全てのタイム理論にいえることだが、馬の能力は時計のみに現れるものではなく、1つの数字だけで全てを図り知る事は出来ない。ただ、競馬は徒競走であるが故、タイムが占めるウェイトは非常に大きいのも事実。重要な事は、全てをスピード指数に頼るのではなく、スピード指数が出来るところまでを評価すること。これは何も指数に限った事ではなく、全ての馬券術にはその理論で絞り込める限界値が存在する。そこで、どこまで絞り込めるかを「予想の精度」と定義する事にした。
■予想の精度とは?
「予想の精度」とはなにか? 具体的な例を挙げながら、その考えに触れてみよう。
再びスピード指数を例に話をすすめる。初めにスピード指数の定義を軽く述べると…
【西田式スピード指数】
スピード指数=基準タイム−走破タイム−80+馬場指数
-
500万と900万の平均タイム(1〜5着馬の平均タイム)から、コース距離ごとに基準タイムを算出
-
その日ごとの時計の出易さを馬場指数という指数で表現
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クラスや距離の違いは、独自の補正値で吸収
-
基本的には、基準タイムと走破タイムの差を求め、基準タイムよりも早ければ早いほど数値が高くなる
-
馬が全力で走ったと想定しているため、スローペースに弱い
コラム. Targetで採用されている補正タイムの精度 |
Targetで採用されている「補正タイム」はこれとは異なる考えで組み立てられている。レースごとに基準タイムを設定し、スピード指数の欠点を補完しようとしたわけだが、作業量が膨大になる上、大きな構造的な欠点を有している。というのも「補正タイム」では馬場差を出さない為、多くはその週に行われた他のレースや同クラスのタイムとの比較を行う。レース単位ではこれで正しいように思えるが、開催単位で基準タイムを算出してみると、時々下のクラスの基準タイムが、上のクラスの基準タイムよりも早い逆転現象が発生する。500万の基準タイムが900万の基準タイムより早いという事は、時計理論としては致命的な欠陥といえる。レース単位で上のクラスよりも早い時計が出る事は問題がないが(高レベルという事になる)、クラスの平均的なタイムを定義する基準タイムは、天地がひっくり返っても上のクラスを超えてはならない。
これは、「補正タイム」の予想の精度の限界といえる。 |
スピード指数の長所や短所についてここでいまさら論じるつもりはない。また、スローペースに関する考察もするつもりもない。改めてスピード指数の式について触れた理由は、式の構成要素をもう一度頭に入れていただく為だ。
さて、スピード指数では前走の指数と、2〜4走前の指数上位についてマークをつける。前走の指数の高い順にA,B,C,Dがつけられる(厳密に言えば、前走の指数に55kgを基準とした斤量補正を加えた値)。そして、2〜4走の指数上位馬にはX,Y,Zが与えられる。当然前走もよくて、近走の指数も上位ならAXの様にマークが重複してつけられる。西田式スピード指数において、AX馬とは前走の指数もいいし(好調子)、過去最高値(潜在能力も高い)の指数をマークした最高の馬という事になる。
基本に従って買い目を決めるなら、A馬流し、AX馬を見つけたら何が何でも流さなければならないのである。確かに統計を取ってみるとAX馬の連対率は非常に高く、50%近くになる。個人的な調査では1番人気流しと同じ信頼度だ。でも、うがった見方をすれば残りの50%は連を外しているわけで、「なんだ、時計が全てじゃないのかよ」と思う事だろう。ふと出馬表に目を移すと、ランク馬(A〜D,X〜Zなどなんらかのマークがついている馬)どうしで決まっている事に気づく。
「おっ、B馬とD馬で決まっているなら買っておけばよかった。それにしてもスピード指数上位馬どうしを買うだけで、高配当がGETできるんだからやっぱスピード指数はすげぇな。次回はBやDのランクがついた組み合わせも買おっと」
なんてことが頭をよぎるだろう。これが大きな落とし穴で、スピード指数の予想の精度の限界を露呈している。タイム理論はスピード指数に限らず、一番指数の高い馬から買うのが基本だ。それ以外の組み合わせ(上位4頭BOXなど)は、あくまでも亜流であり、あなた自身のアレンジなのだ。A馬が連軸で決まっているうちはいいが、X-ZやD-Yなどランク馬どうしの組み合わせは21通りある。こんな組み合わせを全て買っていたら的中率は上がっても、マイナス収支確実でオケラ街道を歩む事になる(しかもランクされない馬も当然連対する)。これだけではない。スピード指数の習熟し、自己流のアレンジを加えている達人でさえ、指数が非常に僅差の馬の取捨を指数だけで行う事は出来ないのだ。
【2001.11.21補足】
スピード指数などのタイム理論を主な予想手段に用いている方は、指数が僅差で時計だけでは買い目を絞りきれない時、過去の記憶からその馬や騎手についてのデータを引き出し、より強いと記憶している馬、騎手をより上位に評価する。即ち、スピード指数の精度の限界を、レースの記憶で補っているのだ。特に意識して無くても、経験的にそのような補正処理を脳が行っている。
実例を挙げよう。以下の指数表は2001年秋のG1シリーズのとあるレースの指数を、馬番を入れ替えて並べたものだ。勝ち馬を当てていただきたい。尚、表中のNoは馬番ではなく、仮の番号。
(実例)2001年秋のG1シリーズの出馬表
No. |
5走前 |
4走前 |
3走前 |
2走前 |
1走前 |
調整値 |
1 |
ダ1800 |
51 |
芝1600 |
66 |
芝1800 |
70 |
芝2000 |
80 |
芝1800 |
66 |
66 |
|
2 |
芝1800 |
65 |
芝1700 |
62 |
芝1800 |
69 |
芝2000 |
57 |
芝1800 |
70 |
70 |
C |
3 |
芝1200 |
43 |
芝1600 |
67 |
芝1600 |
77 |
芝1600 |
73 |
芝2400 |
58 |
58 |
|
4 |
芝1600 |
83 |
芝1600 |
73 |
芝2400 |
65 |
芝1800 |
80 |
芝2000 |
64 |
64 |
|
5 |
|
|
ダ1800 |
47 |
ダ1800 |
53 |
ダ1700 |
62 |
芝1800 |
70 |
70 |
C |
6 |
ダ1700 |
69 |
ダ1700 |
65 |
ダ1700 |
65 |
ダ1400 |
61 |
ダ1400 |
69 |
69 |
|
7 |
ダ1400 |
53 |
ダ1700 |
64 |
ダ1700 |
59 |
ダ1700 |
69 |
芝2000 |
--- |
69 |
|
8 |
芝1400 |
63 |
芝1600 |
67 |
芝1600 |
63 |
芝2000 |
71 |
芝2000 |
48 |
48 |
|
9 |
芝1800 |
76 |
芝1600 |
70 |
芝1600 |
77 |
芝1600 |
78 |
芝2400 |
67 |
67 |
|
10 |
芝1600 |
69 |
芝1200 |
68 |
芝1600 |
60 |
芝1600 |
64 |
芝1800 |
73 |
73 |
B |
11 |
芝1800 |
65 |
芝2000 |
81 |
芝2000 |
70 |
芝1800 |
60 |
芝2000 |
64 |
64 |
Y |
12 |
ダ1200 |
47 |
ダ1200 |
48 |
芝1600 |
77 |
芝1600 |
56 |
芝2000 |
65 |
65 |
|
13 |
芝1600 |
77 |
芝2000 |
63 |
芝1800 |
64 |
芝1800 |
75 |
芝2000 |
56 |
56 |
|
14 |
芝1200 |
66 |
芝1600 |
80 |
芝1600 |
71 |
芝2400 |
67 |
芝2000 |
60 |
60 |
|
15 |
芝1200 |
46 |
芝1400 |
77 |
芝2000 |
81 |
芝2400 |
70 |
芝2000 |
64 |
64 |
Y |
16 |
ダ1400 |
35 |
芝1800 |
64 |
ダ1800 |
59 |
芝1700 |
69 |
芝2000 |
61 |
61 |
|
17 |
芝2000 |
64 |
芝1800 |
73 |
芝2000 |
71 |
芝1800 |
75 |
芝2000 |
56 |
56 |
|
18 |
芝1800 |
66 |
芝2000 |
67 |
芝2000 |
83 |
芝2400 |
70 |
芝1800 |
74 |
74 |
AX |
答えは、9−15だ。テイエムオーシャンが2冠を達成した秋華賞のものである。このように、指数が僅差だと、軸馬を決めるのですら困難だ。スピード指数の予想の精度の限界が見えてきただろうか。
【2001.11.21補足】
上記の事からも、スピード指数が僅差の時、いかに馬名からくるイメージやレースの記憶が判断材料としてウェイトを占めているか、お分かりになったと思う。昔から、競馬は記憶のゲームである。もっとレースをよく見なさいといわれるのは、これら記憶のデータベースを最後の手がかりにするためだ。G1レースを偏重する向きは、頭の中のレース記憶データベースの構築が容易だからだろう。条件戦は、はじめてみる馬も多く、レース記憶データベースが機能しないため、予想が難しいと感じてしまう。そうなると、ますますスピード指数のようなタイム理論を判断のよりどころとしてしまう傾向が強くなる。機械的に買い目を出せる馬券術を用いている場合は、G1レースだろうが、条件戦だろうが関係なく予想が出来る事にもお気づきだろう。レース記憶データベースの存在は、馬名を隠して予想した際に強く実感する事が出来る
【西田式スピード指数の予想の精度】
他にもあるが、この3つをしっかり頭に叩き込んでおいて頂けば、スピード指数の予想精度を理解した事になる。
アンチ・スピード指数派が「指数だけで買い目を決める奴をみるとヘドが出る」というのは、感覚的にこのスピード指数の精度を理解しているのだろう。
ここで断っておくが、私はA.ベイヤーや西田氏が考案した「スピード指数」は一部計算に、物理法則を無視した怪しげな補正が加えられては要るものの、非常に理にかなった理論であると思っている。だが、指数だけで買い目を決めるような愚行は避けたい。スピード指数には先にあげたような、馬券術としての限界である「予想の精度」があり、有力馬を絞り込む事は出来ても、連軸までは指名できないのだ。
■他の馬券術における予想の精度
スピード指数の悪口を一通り言い終えたところで、タイム理論以外の新興馬券術についても考察してみよう。タイム理論とはまったく異なった観点であり、最近注目を集めている理論に「血統ビーム」がある。「血統ビーム」はダビスタ四天王亀谷氏が考案したシンプルな馬券術であり、使い勝手もよく考え方が斬新である事からも、最近信者を増やしている(書店に行くと血統ビーム系の本が結構増えてきたが、はっきり言ってページ数の割りに内容が無いので買うとがっかりさせられる。だから、馬券本ではなく、データブックを買うんだと言う心構えをしたほうが、ダメージも少ないだろう…笑)。
【血統ビーム】
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種牡馬ごとに決まった数値(適性を数値化したもの)を血統ビームと呼ぶ
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コースごとに設定された数値(馬場の形状や傾向などを数値化したもの)を馬場ビームと呼ぶ
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その日の馬場傾向(前残り、差しが利きやすい)をふまえ、2つの数値がぴったり一致した馬を買う
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馬の適性のみに着目
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スピード指数とは180度違う視点なので、人気になりにくい
-
ここの馬の能力等は一切無視
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最近競馬系HPなどで、上がり3Fのラップや持続型、瞬発型と言っているのはほとんどこのタイプ
血統ビームは過去の膨大なレース結果から、種牡馬ごとの血統ビームを算出している。種牡馬さえわかれば血統ビームを算出できるため(亀谷氏の印税に協力する必要があるが)、その気になれば5分で予想できるお手軽理論である。ただし、使用するファクタが血統欄だけであり、各馬の成績や能力を考慮しない点や、新聞を損した気になる以外はすばらしい理論だ。
当然のことながらこの理論にも精度の限界がある(亀谷氏の著書に出走馬の血統がかかれていなかった以外に)。
【血統ビームの予想の精度】
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血統ビームを算出する時、血統だけで求めるので、同じ種牡馬であれば同じ血統ビームになる
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前残り馬場(A)と差し馬場(B)を判断し、馬場ビームを決める必要があるため、土曜1レースは馬券術がまったく役に立たない
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馬場を見誤ると予想が成り立たなくなる
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血統ビームがあわなくても、能力が異常に高い馬がいた場合、引っかからなくなる
血統ビームの限界は、同一血統馬までしか絞り込めず、しかもビームが一致しなくても能力が高ければ連対してしまう可能性があるという事。血統ビームは適性を見る馬券術なのだ。
どんな馬券術であれ、その根底に流れる思想以上の精度は出す事は出来ない。精度の境界線にあたった時にどう対処すべきか、この事を常に頭の片隅にとどめる必要がある。
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