作成日:2001年11月23日
更新日:2001年11月23日
今回は「予想の精度」の続編に位置し、予想の精度に突き当たった場合
への対処方法として、なすが実践する方法論をご紹介する。
■勝ち馬へのアプローチには2種類ある
世の中には様々な馬券術が存在する。スピード指数に代表されるタイム理論(現在の主流)や、最近提唱されてきた馬のタイプとコースとの相性で判断する血統ビーム。異常投票に着目したオッズ理論、出目、展開予想…。オッズ理論のような数字のみに着目した理論以外は、大きく分けて2つに分けることが出来る。1つはここの馬の能力や適性に着目した「固体主義予想」、もう1つは馬場状態や展開などに着目した「全体主義予想」である。どちらの予想が優れているかは、別の機会に譲る(というより意味がない)。ここでは双方の違いを明確に分け、それぞれの長所と短所をつかんでみよう。
【馬の固体に着目した馬券術】 |
- スピード指数などの時計理論
- 距離適性、コース適性
- 調教やパドックによる馬の調子
- 短縮ショッカーなどのローテーション理論
- 馬場ビーム
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■長所:
- 個々の馬の優劣を比較するので扱いやすい
- 自動的に買い目を出す事も可能
- 数値による検証がしやすい
- 理論やデータが分かりやすい分、予想に自信がもてる
- 自分流のスタイルを確立しやすい(扱いやすいため)
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■短所:
- 個々の能力が近接している場合など、絞り込めない
- 不可解な負け方をする事がある
- データに説得力がある分、盲信しやすく深みにはまると抜け出せなくなる
- PCで計算しやすい指数系理論(スピード指数など)の場合、人気になりやすく旨味がない
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【レース自体に着目した馬券術】 |
- ペースによるレース展開
- 馬場状態による有利不利(内、外の差)
- 有力馬の位置取りを考慮した展開(影響度)
- コースごとの特性による脚質の有利不利
- 過去のレースの傾向による消去法(施行条件)
- 出走馬の顔ぶれによる展開
- コース形態による有利不利
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■長所:
- レースを個々の馬だけでなく、全体として捕らえるので各馬の有利不利が明確になる
- 不可解な負け方が少なくなる
- 人気になりにくい
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■短所:
- 分かりづらく、習得しにくい
- 機械的に買い目を出す事は出来ない
- 自分を納得させるだけの材料に乏しい
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中にはどちらにも含まれる理論もあるが、分類上上記のように分けた。現在の主要な馬券術はほとんど馬の固体に着目したものである。検証のしやすさも手伝い、広く普及している。後者のレース自体に着目した方法論は、分かりづらく統計的な検証が取りづらいので、傍流に追いやられている。
ここで重要な事は馬の固体に着目した方法論は、該当馬をピックアップするのには向いているが、相対評価に向かないという事だ。スピード指数は本来、各馬のこれまでの走破時計を同じ土俵で評価する為に、比較しやすい数値に置き換えたものだが、スピード指数に現れるのは時計の速い馬と遅い馬の明確化であり、勝ち馬の予想には必ずしも直結しない(かなりそれに近いところまで絞り込めるが、詳細は別項の予想の精度に譲る)。もし直結するのなら、必ずスピード指数No.1の馬が連対しなくてはならないが、現実はそう甘くないので、ひとそれぞれ独自のプロセスが入ることになる。皆さんも経験があるだろう。Aという馬とBという馬をどちらを軸馬とすべきか?
同じ様なスピード指数を示し、血統ビームも一致。多くの場合、両馬とも買うか、菊地寛の格言(JRA競馬カタログへリンク)に従い人気の無いほうを買うか、はたまたレースそのものをケンすることになる。もし、1頭だけを自信をもって選出できた場合は、馬の固体を評価する方法論の枠組みを外れ、相対評価する方法論を用いた事になる。
相対的な評価方法(レース自体に着目した)の代表格は展開予想であろう。展開予想は各馬の脚質やメンバー構成から、想定されうるペースと大まかな位置取りから、展開が有利に働く馬と不利に働く馬をより分ける。こう書くと馬の固体に着目した馬券術と大差ないように感じられるかもしれないが、馬の固体に着目した馬券術はメンバー構成は予想ファクターに含まれていないが、展開予想の場合、メンバーが異なればまったく違った結論が出る。メンバー構成が違うという事は、レース施工条件が異なる事に等しく、予想は一から組み立て直す必要がある。スピード指数のような時計理論の場合、メンバーは変わっても指数の高い馬は高いままだし、低い馬の指数が高くなるわけでもない(大まかな評価は出ている)。
馬の固体を評価する方法は「点や線」であり、レース全体を評価する方法は「面」である。
レース自体は面であり、いかに点や線を面に広げていくかがポイントだ。
■レース全体を評価する予想法をするには?
競馬の予想法に必勝法など存在しない(トータル収支でプラスに持っていく方法論はいくらでもあるが、やれば必ず勝てるわけではないので不敗法と呼称したほうが正しい)ので、自ずと様々な方法論を混在させて使う事になる。これはこれで正しい。どの様な馬券術を同配合していくかは、各人のスタイルや思想による事だろうが、1つだけ明らかにしておかなければならない事がある。それは、どこで線を引くかという事。どの馬券術も有力馬選出の精度(予想の精度)があり、それを超えて絞込みをかける場合には熟練と勘が必要になる。熟練や勘に頼りたくない場合には、それぞれの馬券術の限界を理解し、限界を超えた場合はレース全体を評価する馬券術に引き継ぐか、レースそのものをケンする方が得策だ。
- 馬の固体を評価する馬券術をどこまで適用するか、自分で明確な線を引く
- 有力馬を挙げる作業は、馬の固体を評価する馬券術に頼り、よりシビアな絞込みや比較はレース全体を評価する馬券術を活用する方法が良い
- 出馬表を見回した段階で、展開的に顕著な偏りがみられた場合は、そちらを踏まえた上での予想法に切り替えるのも手
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さて、いよいよレース全体を評価する方法論だが、実ははっきりこれと言えるほど明確な方法論は確立していない(申し訳ない)。そこで、現在までの研究成果を記すので、概念的な部分だけでも参考にしていただきたい。
【起 - 有力馬を絞り込む】
恐らく全ての人にとっての課題は、4,5頭までに絞り込んだ有力馬の中から、いかにして軸馬を見つけるかという事だろう。ある程度競馬に習熟してくれば、どのような方法論であれ、すぐに4,5頭まで絞り込める(精度はまた別の問題)。常にBOX買いの方には関係のない話だが、軸馬の選定は非常に重要な作業だ。縦目はこの時下した判断が誤っていた場合に発生する。軸流しのスタイルを敢行している人にとって、縦目は大外れなのである(極端な例を挙げれば、ある馬から総流しを掛け外れた場合、縦目で外れたとは言わないだろう)。
有力馬のピックアップは馬の固体を評価する馬券術で絞り込まれていると思うので、それ以上の絞込みをかけるにはレース全体を評価する方法論を用いる必要がある。レース全体を評価する方法論は、先ほど挙げた通りいくつかの方法があるが、ここでは展開を用いて評価する方法を取り上げた。
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有力馬を数頭まで馬の固体を評価する馬券術で絞り込む
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用いた馬券術の予想の精度の限界に来ているかを見極める
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限界にきていれば、レース全体で評価する方法論に切り換える
【承 - 展開要因を洗いだす】
この段階ですべきことは展開予想のための準備だ。展開予想をするには、各馬の脚質を明らかにする必要がある。よく、展開予想と言うと「どの馬が2,3番手につけて、この馬はあの馬は何番手」など、各馬の細かい位置取りのことを指すと思い込んでいる向きもいるが、こんな作業は無駄以外の何物でもないので、大雑把な位置取りだけを考えるようにしよう。大雑把な位置取りとは、逃げ、先行、差し、追い込みの4種類に、マクリを加えたものでいい。なお、マクリについては騎手の判断と指示が不可欠であるため、初めは基本的な4種類の脚質だけでよいだろう。
私は出馬表に逃げ馬には○、先行馬は□のマークをつけている。要は一目見て前を行く馬と、後方から行く馬の判断がつけばよい。
また、1〜3番人気の有力馬が、どの位置につけるかも検討しよう。人気の高い馬は、レースに対する影響度が高く、他の騎手もその動向を気にする。能力の伴った馬であれば尚の事だ。ギャロップレーサーやファイナルハロンなどの競馬系のレーシングゲームをやってみると分かるが、騎手がレース中に考えていることはスピード指数や適性うんぬんではなく、怖いと感じている馬の位置取りと自分の馬の位置取りである。予想する側と乗る側の意識的なギャップでもあるので、ピンとこなければこれらゲームをやりこんでみることを勧める。
この段階で逃げ馬の数を数えておこう。当然レースの展開を握るのは逃げ馬であり、ペースを左右する重要なファクターだ。
【転 - 空間的な広がりを持たせる】
いかにも意味不明なサブタイトルだが、レースを空間的に捕らえる作業がレース全体で捕らえる馬券術の骨子に当たる部分だ。現在、この部分は研究開発途中に有り、かなり抽象的な表現も混じるがなるべく分かりやすい表現で説明したいと思う。
馬の能力や適性を挙げることが「線」なら、環境要因(コースや天候、枠順など)や展開などを絡めて考えることを「面」と表現した。この2つの要素はまったく異なるもので有り、お互いにかなりの影響を与えるものだが、2つを絡めて論じられているケースがほとんど無いように感じる。
競馬は馬という「固体」が、競馬場や馬場という「空間」で、スタートからゴールまで駆け抜ける徒競走である。しかも陸上トラック競走とは異なり、自由に位置を移動できるためコースロスや進路妨害なども含めて様々な空間的な制約を受ける。また、馬は生き物であり、常に限界スピードで駆け抜ける事は出来ない。これが空間的制約を受けにくい陸上トラック競走(100mや400m走など)なら、純粋に馬の固体の能力や心肺機能だけを論じればいいが、前述のような空間的制約を無視できないのでどうしても精度が悪くなる。
サブタイトルの空間的な広がりを持たせるという事の意味は、今まで挙げた材料を元に、これら空間的制約や実際に馬に指示を出す騎手(調教師)の思惑を絡めて判断するという事を指す。
コースや天候、枠順についての研究はまだ進んでいないので、特に重要と思われる有力馬の位置取りについて触れる。前項で1〜3番人気の位置取りを考えてみようと触れたが、力のある人気馬はレースに対する「影響度」が強く、ペースを握る逃げ馬と同等、時にはそれ以上に展開に多大な影響を与える。押し出された人気馬でない限り、どの騎手もその人気馬の存在を無視できず、いかにしてその馬に勝つかという乗り方をするはずだ(断定できないのは、勝率の悪いへっぽこ騎手は行き当たりばったりで騎乗している可能性があるため)。2001年の秋のG1シリーズを振り返ると、影響度の強い馬が後方に固まり、先行有利で捉えきれず波乱になるというレースが多かった。G1のような大きなレースの場合、事前に騎乗馬のデータや相手との力関係を元に、騎手の頭の中で何度もレースシミュレーションが繰り返される為、さらに人気馬の影響度は高くなる。影響度は他の騎手がどの程度その馬を意識するかという事だ。
この概念を2001年菊花賞を例に、図にしてみたいと思う。
【2001年菊花賞 空間支配図(仮称)】 |
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縦軸は能力値を表す(上に行くほど能力が高い)
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横軸は位置取りを表す(右に行くほど前で競馬が出来る)
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有力馬を点としてプロットし、人気馬を2重丸で囲む
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影響力のある馬を他の有力馬は意識する
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意識されるという事は、マークがきつくなり空間的な制約(きつい流れ、コース取り)を受けやすくなる
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有力馬として上がっていない馬は、点をプロットせず、点線などでイメージとして書き込んでおく
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今まで漠然としていた展開へのイメージが、より具体化したのではないだろうか? 現段階ではこれはあくまでも概念(仮説)をあらわす図に過ぎないが、この図を参考に展開の有利不利が見えてくると、馬券術に空間的広がりをもたせる第1歩になるだろう。
【結 - 展開のイメージを固め結論を出す】
空間支配図を元に、各馬の位置や力関係を相対的に評価する。ここから先はレース展開のイメージをパターン化する必要があると思うが、上記図の場合は人気と実力を伴ったジャングルポケットとダンツフレームが後方に固まり、互いを牽制する位置にいる為、先行馬のマークが甘くなり、結果として人気薄の逃げ馬の逃げ残りを許す事になる。3着のエアエミネムは、前を行く馬に注意を払いつつも、影響度の強い後ろの馬を警戒する必要があるので、展開的に非常に厳しい判断を迫られた事になる。勝ったマンハッタンカフェは、位置取り的にはエアエミネムと同位置になるが、人気のない分影響度は少なく、レースがしやすかった。このレースのように影響度の高い馬が後方に位置している場合は、騎手が取りうる作戦として直線の瞬発力勝負にかけるか、早めに抜け出して凌ぐかのどちらかになる。瞬発力がある馬の場合は、直線の上がり勝負に持ち込む可能性が高いだろう。
空間支配図を用いると、馬の力関係と位置取りを図にする事により前を行く馬が有利か、後ろから行った方がいいのか、エアエミネムのような馬はどういう展開をしなければならないのかの推理がしやすくなる。
■締めくくり
数値演算や記憶力はコンピュータにかなわない。現在のコンシューマー向けのPCでも、一昔前のワークステーションと同等かそれ以上のパフォーマンスを発揮する。人間は逆立ちしてもかなわない。だが、まだまだ人間にはたやすく出来る事が、コンピュータには難しい事もたくさんある。その1つが空間認知である。コンピュータに膨大な過去のデータから能力値などを算出させ、それを元に「空間的な広がりを持つ図」にする。人間は得意分野の空間認知能力をフルに生かし、決断を下す。これが「レース全体を評価する馬券術」の終着地点だ(全ての決断をコンピュータ任せにしない点も、なすの馬券術の趣旨にマッチする)。
尚、今後様々な研究や検証を行い、より具体的な馬券術に仕上げていく予定なので、
その成果を首を長くして(期待しないで)待っていて欲しい。
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